嗚呼後輩


 こないだ近所に越してきた高校の後輩から、突然の電話。


「今、お時間ありますか? 台所を貸していただけないでしょうか」
 …いや、そりゃ時間はあるけども。台所?
「実は、フルーツヨーグルトが食べたくなりまして」
 うん。でもまあそれなら、作り方がわからないとかではないだろう。
「思い立って桃缶とか果物とかいろいろ買ったんですよ。でもうちにあるボウルが小さくて使えないので、そちらの台所をお借りして、混ぜてタッパーに詰めて持って帰りたいなー、なんて…」
 あー、そゆことか。彼の新居の台所は、居室にシンクが生えてるといった代物で、確かに大きい調理用具とかは収納できなそう。うん、まあいいよ。
「それともうひとつ、重要なことがありまして」
 なんだね。
「みなおさんち、缶切りありますか?」
 …買えよそういう生活必需品はっ。


 程なくして近所のスーパーのレジ袋を持って後輩到着。彼は夫と共通の友人なので、仲良く台所で果物を切り刻んでいる様子。書斎でメール書いてる私の耳には、声だけが届く。
「ヨーグルトが安かったんで2パックと、バナナとリンゴと」
 豪勢だなぁ。ま、ひとり暮らしでビタミン不足してそうだし、よしよし。
「あと桃缶と。冷凍のブルーベリーもあるんですよ」
 うん、豪華だ…って、ちょっと待て。
 恐る恐る覗きに行くとそこには、私が普段5合の米を研ぐのに使っている、我が家最大のボウルになみなみと白い粘体が…。
 余った分は差し上げますよと帰ろうとする彼に、自宅のタッパーを供出して無理矢理もう1パック持たせる。これでやっと、我が家に残る分は並みの量に。


 後には豪華なフルーツヨーグルトと、飽和したため投入を見送られたバナナが残った。後かたづけをしながら夫がぽつりと
「冷蔵庫とか自分の胃のキャパを考えて買い物をするとかって技能は、彼にはないのかね」
 あのね。昨日も半額につられてシーフードを買い込んできて、パスタに投入したら多すぎたとか言ってる人の台詞、それ?
「…すみません」
 休日早々笑いを提供してもらったのは良いが、後輩の教育を間違えた気が、ひしひしと、する。